記録を書いたり物事をコツコツやるのが苦手である。夏休みの宿題なんて終わらせたことがない。そういうわけで、今更去年の沢の記録を書くのも億劫でずるずる引き伸ばしていたのだが、いい加減書けよと言われ渋々筆を取る次第だ。
さて、飯豊は梅花皮沢。梅花皮大滝の写真を見た時から心奪われ、「渓谷登攀」の記録を読んで以来、一生のうちでいつかは行きたいと思っていた沢である。
結果として、個人的には2022年で最も感動した遡行となった。終始ケタ違いのスケール感に畏怖を感じ、腹にズシッとした興奮と恐怖を抱えたまま遡行をすることができた。また、ヘタレクライマーこと、むらっちの迷言連発も印象深い。
飯豊 玉川梅花皮沢滝沢
2022.17-18
わんこ、むらっち、きむ(記)
細かいところは下記リンクを参照。ここではハイライトに絞って記したい。https://www.yamareco.com/modules/yamareco/detail-4700019.html
梅花皮沢のハイライトは大きく分けて3つ。
①梅花皮大滝の登攀②中部ゴルジュの巻き③上部ゴルジュ登攀
①梅花皮大滝の登攀
梅花皮大滝を遠くから望み興奮が高まる。
F3落ち口から。めちゃくちゃカッコイイ。
F4落ち口付近からロープを出した。高度感のあるスラブのトラバース。ちなみに我々はクライミングシューズを持ってきていない。
F5も簡単だが高度感があるのでロープを出した。快適。
いよいよ本丸のF6。右壁を登っていく。厳正なるリードじゃんけんの結果、1ピッチむらっち、2ピッチ目わんこさん、3ピッチ目きむとなる。
1ピッチ目むらっちリード。ここまでの巻きや登攀ですでにビビリが入っていたこともあり、なかなか苦戦している。というか中間支点が全部草なんやがwwww実際登ってみるとやらしい傾斜でいい感じのリスが少なく、快適とは言い難い。ナイス根性!
2ピッチ目はわんこさんリード。ボロくてホールドの乏しい凹角を登っていく。左壁がツルツルで見るからに悪く、エイドを交えながら奮闘している。右壁にある頭の飛んだボルトに極細スリングをタイオフし、その頼りない支点にアブミを掛けて突破。流石です。
むらっちはここで2mほどフォール。なお、これにより上に取っていたワンコさんのリンクカムがぶち壊れたそうな。自分も登ったがなかなか際どく、リードしなくて良かったと思った。
梅花皮大滝を足元に収めたぜ!終了点が狭くてボロかったので続く3ピッチ目もわんこさんがそのままリード。ボロ壁と灌木をこなして梅花皮大滝の落ち口へ。あのカッコイイ滝を登りきったと思うと感無量。
続く下部ゴルジュは雪渓で埋まっていたので、上を歩いたり側壁をトラバースしたりして、中部ゴルジュ手前の狭い河原でビバークすることにした。雪渓から吹き付ける冷風でとても寒かった。思ったよりも進めたので、3日の予定を2日で抜けることにし、酒とつまみを消費する。酔っ払ってウンコしに行ったら小滝から落ちて死にかけた。
②中部ゴルジュの巻き
2日目は朝から雪渓歩き。程なくして途切れるので右岸に移って高巻き開始。
下のバカでかい雪渓からは、何度も腹に響く崩壊音が聞こえた。とても下をくぐったりする気にはなれず、ひたすら右岸を高巻く。
ロープを出しつつ、高度感のあるスラブ登りや藪こぎで進む。ここらへんでむらっちの心は折れはじめ、大したことないところでも「ロープ出してくれよ〜」と言い始める。
下方に歩けそうなバンドが見えたので1度懸垂下降。捨て縄使用。
本日も晴天なり。スラブのトラバースと藪こぎでむらっちがビビリ倒し、ロープを懇願していてちょっと面白い。人が必死だと逆に自分は冷静になるのなんでだろ〜。なお、彼は沢では豆腐メンタルだが、乾いた岩ではちゃんと登れるクライマーである。
眼下のゴルジュには絶望的なCS。
右奥の黒い影がわんこさん。上へ上へ登りがたるむらっちをなだめすかしながら、なるべく低く巻く。シビアなルーファイだ。途中なかなかの強さで雨が降り始める。しかも濡れた笹薮トラバースでちょっと怖い。だが笹をつかんでいれば落ちはしないだろうと進んでいたら、「置いて行かないでくれよ〜」とむらっちが叫んでいる。そんなに離れていないし、めんどくさいので無視して進んだら、更に「わんこさんどこ〜」という声。むらっちの心は限界のようだ。ここにヘタレクライマーが誕生した。
雨の後には虹。
なんやかんや頑張って中部ゴルジュを突破して、沢床に降り立つ。気の抜けない高巻きを終えて一安心。長かった。
③上部ゴルジュ登攀
こんな上までゴルジュがあるなんてどうなっているんだ。高巻きから開放され、はしゃぐ。
すぐにCSが現れる。見た目より全然悪く、ハンマー投げ。
ハンマー投げが決まったもののホールド、スタンスに乏しく、水流も強いので厳しい。わんこさんリードで突破。やっぱこういうところはわんこさんやな。
こんな空間初めてだ。あの梅花皮を遡行してるんだな〜と酔いしれる。
最後の核心15m滝。とてもではないが水線は登攀不可。左壁をオブザベしてなんとなくラインを見出す。
ここは自分がリード。ランナウトしながらホールドに乏しいスラブを登り、キモい体勢でボロいリスにハーケン2枚ほど決める。落ちても止まる気はしない。
ここからカンテに向かって右にトラバース。スラブからカンテの奥は全く見えないのでめちゃくちゃ怖いが、オブザベで回り込んだ先にホールドがあるのは確認しているので覚悟を決めて突っ込んだ。
カンテを回り込んだら垂壁。しかもまた雨が降ってきて岩が濡れてきた。下はスパッと切れ、スラブに打ってきたハーケンは信用できず絶対に落ちられない。足元にカムを決めて深呼吸。カタカタ動くホールドを押さえつけながら直上。気づいたら落ち口だった。間違いなく2022年会心の登攀だった。
フォローむらっち。高度感よ。
力を振り絞って詰めると、そこには天国が広がっていた。
明るかったらさぞ美しいであろう飯豊の稜線を、暗闇の中下山。22時すぎに疲労困憊で駐車場に辿り着いた。
やはり大きな沢は良いな〜と心から思った。また、良いタイミングで良いメンバーに恵まれ、梅花皮を遡行しきれたことは、本当に幸せなことだと思う。わんこさん、むらっち、ありがとうございました。